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ファイティングファンタジーゲームブック日本未訳作品の翻訳活動


スカラスティック版FFゲームブック第12巻 書下ろし新作
「死の門扉 The Gates of Death」
著者:チャーリー・ヒグソン Charlie Higson
表紙イラスト:ロバート・M・ボール Robert M Ball
本文挿絵:ヴラド・クリザン Vlado Krizan
地図イラスト:レオ・ハータス Leo Hartas
作品舞台地域:西の海、アランシア るつぼ諸島、ポートブラックサンド、シルバートン、サラモニス、トロール牙峠、青銅平原、隠形都市
項目数:470

本書の主人公(読者)は、るつぼ諸島という島で「守護者」と呼ばれる寺院に仕える侍者です。西の海の南方にあるこの島では「守護者」達による治療薬の研究と製造が行われてきました。この島を訪れた者は誰も、石で出来た巨大なるつぼによる薬の製造を見る事になり、それで島名の由来も知る事になるでしょう。
ある日、アランシアから急な報せが来ました。アランシアでは今、「悪魔病」という伝染病が急速に広まっているというのです。この病に感染した者は恐ろしい悪魔じみた化物に姿が変わり、周りにいる人々を襲いだすというのです。襲われた者も同じ病に感染して悪魔に姿を変え、爆発的に犠牲者を増やしていきます。このままではアランシア全土が悪魔病に覆われ、悪魔の住む大陸になり果ててしまうでしょう。そればかりか、アランシアのみならずタイタン世界全てがそうなるかもしれません。
それでも悪魔病には治療法がありました。るつぼ諸島で作られる「煙油」と呼ばれる、特殊な薬草を抽出して作った薬煙を浴びれば元の姿に戻れるのです。しかしながら「煙油」はそんなに多く備蓄されている訳ではありません。アランシアの広い地域に流行した感染者全てを治療するにはとても足りないのです。この少ない量の「煙油」でアランシアを救う道は一つ。アランシアのどこかにあると伝えられる大地の女神スロフの寺院へこれを持って行き、そこの女教皇の魔力で薬の力を増大・拡散してもらう事でした。早速「守護者」達は用意した「煙油」を船に積んでアランシアへ渡り、スロフ寺院を目指す旅に出発しました。主人公の侍者は師であるトビン修道士の補佐としてこの船に乗り込みます。まずは秩序ある港ケインレシュ・マへ上陸し、そこの学者達からスロフの寺院とそれが所在する見えざる隠形都市の情報を得る事。が、しかし…。
「守護者」の乗る船は激しい嵐に見舞われて漂流し、主人公とトビン修道士を除く仲間達は全て死んでしまいます。船が難破して、残った手持ちの「煙油」も10個のみ! そして主人公達が流れ着いた場所は秩序あるケインレシュ・マではなく、盗賊と悪人達の巣窟ポートブラックサンドだったのです…。


「死の門扉」はこのような背景ストーリーで始まります。アランシアで爆発的に感染者を増やしている悪魔病を根絶する為に、その治療薬を隠形都市にあるスロフの寺院へ持っていく事。そしてこの病気の発生源は一体何なのか?

冒険はいきなり危険な町ポートブラックサンドで始まり、その序盤の選択次第でかなり先の進め方が変わってきます。一つは善の大魔法使いニコデマスの助力を得て旅立つルート。もう一つは何とアズール卿の面前に連れて来られて、冒険に出るよう強いられるルート! プレイヤーがアズール卿の御前に連れて来られるというのはシリーズでも初めての展開であり、これだけでもストーリー的にかなりの見せ場でありましょう。
そして本作は旅の範囲が結構広いというのも特徴です。項目数が470もある事から分かるように、結構なボリュームです。ポートブラックサンドを出てシルバートンに泊まり、「バルサスの要塞」や「トロール牙峠戦争」にも登場した名君サラモン王の統治するサラモニスへ。ああ、しかしそのサラモニスとその王までもがあのような惨状になっていようとは! サラモニスを命がけで突破し、隠形都市の手がかりを求めてトロール牙峠へ。そして物語は災厄の元凶である闇の女王にして悪魔の母と呼ばれるウラカーとの最終決戦へと続いて行きます。

本作をプレイして感じるのは、剣と魔法のファンタジーでありながらお話の展開が現代ゾンビもの(感染ものまたはパンデミックものアドベンチャー)に非常に近いという事でしょう。感染した者は凶悪な悪魔になってしまうという悪魔病が蔓延し、主人公はこれを避けつつ、時には戦いながら難関を乗り越えていかねばなりません。主人公やその同行者がある意味で単純な死よりも恐ろしい「感染」の恐怖にさらされながら進んでいくのは、まさに現代ゾンビものそのものです。ただしそこは剣と魔法のファンタジーで、主人公には悪魔病を治療する手段があり、敵として出現した感染者を戦う事なく「煙油」で人間に戻してやる事も可能です。ただしその薬には限りがあり、出会った全ての感染者に用いる事は出来ません。「煙油」を最低一つはスロフ寺院へ持って行かねばならないのですから。数に限りのある「煙油」を道中のどこで使うべきか、それが本作攻略の鍵でもあります。
シリーズ30周年記念作である「ゾンビの血」は現代ルーマニアの古城を舞台としたアドベンチャーゲームでしたが、リビングストン氏によると当初は従来通りのタイタン世界を舞台にしたゾンビものとして構想したと語っていました。最終的には現代を舞台にしたゲームになった訳ですが、奇しくも「ゾンビの血」の当初構想だった「タイタンゾンビもの」は本作でチャーリー・ヒグソン氏が書き上げる事になった訳です。ヒグソン氏とリビングストン氏の交友の深さを考えても、これは決して偶然ではないでしょう。

470項目というボリュームと見所の多いストーリー、場面転換と起伏の多いゲーム展開、感染ものと数に限りのある治療薬というアイデアなど、本作は久しぶりの新作として相応しい良作と言えるでしょう。長らく新作を待った甲斐はありました。今から翻訳のし甲斐がある本で、なるばく早い時期にお届けしたいと思います。

一方でいくつかの欠点もあります。この本で特に多かった問題点として、一度行った行動や場所移動の繰り返しに対する処理がいい加減だという点が挙げられます。例えばいくつかのアイテムや扉を発見した場面で、それらムを調べたい場合はそれぞれ所定の項目へ行って確かめるという状況があったとしましょう。ところがここの文章で「もしまだなら何々を調べよ」という記述が欠けている場合が非常に多い。このままだと何度でもアイテムを取ったり行った事のある場所を調べたり出来てしまうという不具合が生じてしまう訳です。特にゲーム前半にあるサラモニスの探索では町の各エリアが双方向移動可能になっているものの、「もし以前にここに来た事があるなら何も見つからない」という類の記述がなく、何度でもアイテムや金が入手出来てしまうように解釈される危険があるでしょう。これは大変な手抜かりです。同様にこのゲームでは時間や場所を遡って以前のシーンに戻れるアイテムや状況(ソーサリー4巻のZEDの魔法や、「黒き血脈の予言」のラスト直前で選択次第では最初の項目に戻されるようなもの)があるのですが、この際にも持っている金やアイテムをどう処理するのか指示されていない場合が多い。アイデアは良かったのですが、それに伴う面倒な指示や処理の仕方が非常に甘かったと言えます。これはゲームブックを書きなれていない人ゆえのミスでしょうか。

さらにもう一つの欠点として、本書は美術面でかなり損をしている本ではないかとも思います。これは著者ではなく絵描きとそれを起用した編集側の問題でしょう。
まず表紙の問題。スカラスティック版FFの表紙はいずれもロバート・ボール氏というイラストレーターが新たに書き下ろしてきました。ボール氏の画風はいわゆるカートゥーン風で、かつてのパフィンブックス版やウィザードブックス版の各表紙ような精密なリアル系とは大分違っています。この起用はスカラスティック社が児童向けをメインにした出版社という事にも原因があるのでしょう。そうした年齢層を読者に想定してボール氏のような絵描きを起用したのではないか。ただし昔とは大きく違った画風とは言え、ボール氏の表紙絵は一応許容範囲だと思います。問題は本書(に限らずスカラスティック版7巻から12巻全ての)表紙の装丁です。冒頭で本書表紙図を転載しましたが、表紙の中央に小さな丸いエリアがあってそこに主要敵キャラ(ウラカー)の顔が出ているだけ。1-6巻の表紙は同じくボール氏の絵が1頁フルに描かれていたのに、これはちょっとあんまりなのではないか。なんでこんな貧弱でみすぼらしいデザインになっているのか。そもそもボール氏は本書含む7-12巻の表紙イラストもキャラクターの顔部分だけでなく1頁フルの絵として描いています(それらのいくつかはボール氏当人の公式サイトでも公開されている)。なのに、何でフルに描かれた絵の一部分だけを切り取って載せるようなデザインにしたのか理解出来ません。以下は英国のファンが自分で(1-6巻風に)合成して作った本作の表紙ですが、これの方がはるかに良かったでしょう。



表紙の装丁以上に問題なのは本文挿絵です。これははっきり言ってファイティングファンタジーの作風には合いません。スカラスティック版FFの本文挿絵は旧版のものを使わず、全てヴラド・クリザン氏というイラストレーターによる新規書き下ろしとなりました。しかしながらこれは大失敗と言わざるを得ません。クリザン氏は元々SF畑の、それも風景画をどちらかと言うとメインにしてきた画家で、剣と魔法のファンタジー世界を描くには全く画風が合っていないのです。しかもぼかしによる遠近効果を多用する画風という事もあり、これまでクリザン氏が描いたFFの挿絵もグレースケールによる濃淡で色や影を描写するやり方でした。ウィザードブックスまでのFFゲームブック挿絵が基本的に白黒二階調で描かれて来たのとは大きく異なります。しかしながらスカラスティック版FFの挿絵は実際に本を読んでみると酷い見栄えで、ペーパーバックのあまり良くない印刷品質ではこのグレースケール濃淡が十分に再現されず、濃淡の差の微妙な部分が見分けられなかったり、濃い灰色がただの黒ベタにしか見えなかったりという惨憺たるものでした。おそらく元の原画データをコンピューターのモニターで見たり、もっと高品質な紙と印刷レベルで刷ればきれいに出るのかもしれません。しかしながらそうした高品位印刷方式ではなかった上に、描いたクリザン氏もおそらくこうしたペーパーバック印刷に合わせたグレースケールで描くのに慣れていなかったのではないでしょうか。コンピューター画面上できれいに出た色やグレーのレベルがそのまま紙に出ると油断したのかもしれません。同人誌の原稿をコンピューターでやった時などにもよくある事です。こうした問題は7-12巻の挿絵でも同様で、以前の失敗から何も学ばず描いたのは明白でしょう。せめて濃淡差が潰れずにある程度しっかり見分けられるような灰色使いを考えて塗って欲しかったものです。
いずれにせよ作品のイメージと挿絵の画風が根本的に合わない所から来る違和感ばかりはどうしようもありません。本人的にはがんばったのかもしれませんが、やはりクリザン氏によるFFの挿絵はこれで打ち止めにして欲しいというのが正直な所です。

「死の門扉」のワンシーン

ただしクリザン氏の名誉の為に言うならば、6巻「危難の旅路」と12巻「死の門扉」(つまりいずれも書き下ろし新作)の挿絵が他10冊のスカラスティック版FFに比べればいくらかマシに描かれているのは確かでしょう。これは旧作の復刊である10冊ではイラストを旧作のイメージに忠実に描かされているからです。つまりイラストレーターのオリジナリティを発揮出来る条件になかった。どうもヴラド・クリザン氏という絵描きは自分独自のオリジナリティを発揮出来る環境と条件にないと良い絵が描けないタイプなのかもしれません。特に「サイボーグを倒せ」の挿絵は、クリザン氏がモノクロ二階調のアメコミ画風を苦手としていた事もあって酷いものでした。さらに「モンスター誕生」のイラストは旧作の挿絵が持っていた意味(イラスト自体がゲームのヒントになっている時がある)を再現していないという、それ以上の最悪振りです。この辺りの話はまた別項で論じてみたいとも思います。


特に最悪だったクリザン氏による「モンスター誕生」のサイ男の絵。旧版では絵自体にゲームのヒントが隠されていたのに、クリザン氏の絵ではそれがなくなってしまっていた。

挿絵を新しく描かせるのは良い。新刊が少ないばかりか、再刊分も旧来のバグなどを修正せず手抜き復刊する(せめて「地獄の館」は短編の雑誌版を同時収録して完全版として欲しかった)とあれば、せめて絵だけでも新しくしてくれた方が見所があるでしょう。でもなぜにクリザン氏だったのか。マーティン・マッケンナ氏(「闇の短剣」以降「狼男の雄叫び」「火吹山ふたたび」など、言わずと知れた後期FFを代表する絵描き)じゃ駄目だったの? ジェイソン・レノックス氏(「モンスター事典2」の新規分イラスト担当者)じゃいけなかったの? ケヴィン・クロズリー氏(「ゾンビの血」挿絵担当。他に近年のジョナサン・グリーン作品の挿絵も)という選択肢はなかったの? 他にももっと良い選択肢はあったでしょうに。かつてFFが人気を博したのは内容はもちろんの事、表紙や挿絵といった美術面が優れていた事も決して無視出来ません。今のスカラスティック版はそうしたかつての長所が台無しになっているのではないでしょうか。せめてそれぐらいは今後何とかして欲しいものです。

「ゲーム部分よりも美術面で問題」
本書を一言で言い表すとこういう事になるのではないでしょうか。美術面のまずさが足を引っ張ったと思います。でもそれにさえ目をつぶれば、純粋なアドベンチャーゲーム部分だけを見れば十分な良作であったと評価出来るでしょう。ヒグソン氏には今作以降もまたFFゲームブックを書いて欲しいと思わせるだけの作品であった事は間違いありません。

この「死の門扉」という本は我々に一つの教訓を与えてくれます。それはシリーズもの、ゲームでもドラマでも映画でもアニメでも何でも、とりわけ長期に亘ってシリーズが続く作品であるほど、「新しい血」の導入が必要であるという事でしょう。今回FFゲームブックにチャーリー・ヒグソン氏という新作家が参入し、その作品の出来栄えを見れば一目瞭然です。長らく新作家が登場せず表紙だけ変えた復刊が主だったFFゲームブックにもささやかな希望が見えた事は喜ばしい事でしょう。
同じ「FF一門」でも、TRPG部門であるアドバンストファイティングファンタジーについては新たなライターや編纂者が登場し、ルール改定された第2版の登場や「モンスター事典2」「タイタン本草書 Titan Herbal」といったルールブックや設定資料がいくつも刊行(ただしその多くは出版費用をクラウドファンディングで公募するなど、決して元手が潤沢な訳ではないが)されました。これらを実現させたアリオンゲームズ社のグレアム・ボトリー氏やファンから「プロ成り」したアンドリュー・ライト氏のように有能なライター達の参入や活発な活動は賞賛に値しましょう。これら「新しい血」の導入がAFF2を甦らせた訳です。AFF2は日本でも最近グループSNEによって正式に翻訳出版されるに至りましたが、それもまた「新しい血」を得て復活した必然的結果であったでしょう。これが「同門」たるゲームブック部門に示唆する所は大きいと言えます。
ヒグソン氏に加えてさらなる新たな「血」がFFゲームブックにも「輸血」されるのか(それには厳しいと言われるFFゲームブック執筆の契約条件も問題になるでしょうが)。今後とも注目される所であり、それが成功と発展の鍵となる事は間違いありません。もちろん何でも「新しい血」を入れれば良いというものでもないでしょう。血液型の合わない血を輸血したらかえって大変な事になる訳ですから。「血液型の合う新しい血」が果たして今後ともファイティングファンタジー一門のゲームブック部門にも適切に導入されるでしょうか?
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イギリスの本家FFゲームブックが2017年よりまた出版社を変えて再刊された事は前回述べました。新しい出版社はスカラスティック社(Scholastic BOOKS)と言い、イギリスでは児童書分野で最大手の出版社であり、日本にも支社があります。

2017年8月から9月にかけてこのスカラスティック版FFは6冊刊行されました(第1期)。このうち1-5巻は旧作の再刊で、6巻が目玉と言うべき書下ろし新作です。

スカラスティック社版ファイティングファンタジーゲームブックリスト
第1期
1)「火吹山の魔法使い The Warlock of Firetop Mountain」
スティーブ・ジャクソン&イアン・リビングストン著
2)「盗賊都市 City of Thieves」
イアン・リビングストン著
3)「バルサスの要塞 The Citadel of Chaos」
スティーブ・ジャクソン 著
4)「運命の森 The Forest of Doom」
イアン・リビングストン著
5)「地獄の館 House of Hell」
スティーブ・ジャクソン 著
6)「危難の旅路 The Port of Peril」
イアン・リビングストン著

表紙イラスト全て ロバート・M・ボール(ただし6巻の著者サイン入り限定版のみイアン・マッケイが担当)
本文挿絵全て ヴラド・クリザン
地図イラスト レオ・ハータス(5巻除く)

これに続き、2018年4月初頭に6‐12巻の第2期が刊行されました。日本でもアマゾンなどを通じて購入されたファンもおられると思います。今回の第2期6冊のうち5冊が旧作の再刊で、12巻が目玉の書下ろし新作でした。リストは以下になります。

第2期
7)「死の罠の地下迷宮 Deathtrap Dungeon」
イアン・リビングストン著
8)「トカゲ王の島 Island of the Lizard King」
イアン・リビングストン著
9)「サイボーグを倒せ Appointment with F.E.A.R.」
スティーブ・ジャクソン 著
10)「モンスター誕生 Creature of Havoc」
スティーブ・ジャクソン 著
11)「ソーサリー1 魔法使いの丘(シャムタンティの丘を越えて) The Shamutanti Hills」
スティーブ・ジャクソン 著
12)「死の門扉 The Gates of Death」
チャーリー・ヒグソン著

表紙イラスト全て ロバート・M・ボール
本文挿絵全て ヴラド・クリザン
地図イラスト レオ・ハータス(9、11巻除く)

第2期でも注目すべきはやはり書下ろし新作である第12巻「死の門扉 The Gates of Death」でしょう。昨年以来の新刊、それもシリーズ初参入の作家による書下ろしと来ればやらない訳にはいきません。著者のチャーリー・ヒグソン氏は日本ではあまり知名度がありませんが、イギリス本国ではコメディアン兼放送作家として有名であり、小説でも007ジェームズ・ボンドの少年時代を描いた「ヤング・ボンド」シリーズがヒットした人気作家で、実力・実績面でも申し分のない人です。ヒグソン氏はリビングストン氏と以前から交友が深かったそうで、FFへの参入もそうした縁がきっかけだったそうです。
ただ、新作と言っても本が出るまでは正直不安がありました。他ならぬ先行作の「危難の旅路 The Port of Peril」が、アドベンチャーゲームとしてあまり出来が良いとは言い難かった為です。はっきり言ってリビングストン氏の前作にしてシリーズ30周年記念作である「ゾンビの血 Blood of the Zombies」の方が出来が良かった。「危難の旅路」は実質35周年作にあたるのですが、内容的にはかなり見劣りします。「危難の旅路」は「盗賊都市」の続編として、復活したザンバーボーン退治を冒険の最終目的に据え、アランシアの善の魔法使いとして双璧を成すヤズトロモとニコデマスを「共演」させるといったストーリー的な見せ場はあるのですが、いかんせん少しでも本筋から離れた行動をしたらすぐに即死という、アドベンチャーゲームとしてはかなり理不尽な展開になっていました。リビングストン作品の悪い部分が寄せ集められた作風とでも言いましょうか。まあ、翻訳はすでに終わっているので、近いうちにお読みいただけると思います。良い意味でも悪い意味でも読んで損はありません。

では、今回の「死の門扉」はどうなのでしょうか? 
筆者も早速取り寄せて読んでみたのですが、なかなかどうして、これは大した本ですよ。面白いです! ヒグソン氏はFFはもちろん、ゲームブックの執筆自体も初挑戦と思われるのですが、それにしては出来の良いものでした。日本のファンにもぜひプレイして欲しい佳作である事は間違いありません。

ではこの「死の門扉」というゲームブックの内容はいかなるものなのでしょうか?

(続く)
今年2017年はファイティングファンタジーシリーズが発表されて35周年となります。21世紀になってから、これまでFFは節目の年に新しい大きな動きを見せたり「記念作品」を発表してきました。

・2002年(20周年)
アイコンブックス社より「ウィザードブックス」のブランド名でシリーズ再刊。

・2007年(25周年)
火吹山の魔法使い25周年バージョン及び新作「狼男の雄叫び」(ジョナサン・グリーン著)刊行。

・2012年(30周年)
新作「ゾンビの血」(イアン・リビングストン著)刊行

そして35周年の今年はどのような動きがあったのでしょうか?
まず第1に、再び新しい出版社に版元を変えてシリーズが再刊された事です。今度の出版社はスコラスティック(Scholastic)社といい、表紙及び本文イラストも新たなイラストレーターによって書き下ろされ、まずは6冊が今年7月末から8月にかけて発売となりました。
第2は、このスコラスティック社へ移籍して発売される6冊の中に1冊の完全新作が含まれている事です。シリーズ最新作、何と言ってもやはりこれこそ最大の目玉ではないでしょうか。「ゾンビの血」の時と違って特にそのようなふれこみはされていませんが、この新作こそ事実上の「35周年記念作品」と言っても過言ではありません。その新作の著者はFF創業者コンビの片割れであるイアン・リビングストン氏で、節目の年に再び彼は帰って来たのです。

事実上のシリーズ35周年記念作品

「危難の港」
原題「The Port of Peril」
著者 イアン・リビングストン
本文挿絵 ヴラド・クリザン
表紙 ロバート・ボール
地図イラスト レオ・ハータス

題名になっている「危難の港」とは盗賊達の巣窟である危険な都市ポートブラックサンドを意味します。「ブラックサンドに気を付けろ!」FFゲームブックとその関連作品で時折登場するセリフですが、それだけファイティングファンタジーの作品世界(「世界観」にあらず!)においてポートブラックサンドという都市は「剣と魔法の危険な世界を冒険する」という主題と設定を最も象徴する舞台だからでしょう。そして勘の良い方は察しがつくでしょうが、本作「危難の港」はまさに1983年に刊行されたシリーズ第5弾「盗賊都市 City of Thieves」の34年ぶりの続編となっているのです。
では肝心の「危難の港」の内容はいかなるものなのでしょうか?
(続く)
新刊「モンスター事典2」と「吸血鬼の復讐」はおかげ様で好調な売れ行きを見せております。後者は部数が少なかったので売り切れましたが、オフセット版を5月5日のゲームマーケット合わせで刊行予定ですのでしばらくお待ち下さい。



今回の本の来歴について少しお話したいと思います。

・モンスター事典2 Beyond the Pit

かつてファイティングファンタジーの資料集として「モンスター事典 Out of the Pit」(イギリスでは1985年、日本では1986年刊行)という本がありました。日本でもゲームブック人気の高かった時代に翻訳出版されたので、当時のファンであれば購入した方も多いでしょう。ただ、この最初の「モンスター事典」はシリーズ初期に出された本である為、舞台であるタイタン世界の設定がまだ十分に作られていない段階でのものでした。具体的な巻数でいうとパフィン版1巻「火吹山の魔法使い The Warlock of Firetop Mountain」から14巻「恐怖の神殿 Temple of Terror」、ソーサリー4部作、スティーブ・ジャクソン氏によるTRPGの「ファイティングファンタジー」のモンスターと、その後の作品に登場させる為に新たに創作したモンスター類(ただし現在にいたるまでゲームブックに登場していないモンスターも多数あり)で構成されたものです。しかしながらその後FFの刊行が続く中でさらに多くのモンスター類が新たに創作される事となり、そうした新モンスター類に関する解説が行われないまま現在に至って来ました。
本家イギリスでは21世紀に入ってFFゲームブックがウィザードブックスから復刊され、それと同時にジョナサン・グリーン氏やイアン・リビングストン氏による新作ゲームブックの刊行、スマートフォンやタブレット端末へのアプリ版移植、アドバンスドファイティングファンタジー(AFF)のルールブックやシナリオ集の改訂復刊・新作刊行など、80年代とは比較にならないとは言え、熱心なファンの支持を受けて再び商業活動が行われています。特にTRPGとしてAFFが新たに復活した事により、資料類を充実させる必要性が高まったと言えるでしょう。そうした中で待望の資料集が新たに刊行されました。そう、ファンの多くが待ち望んだ「モンスター事典(以下「1」と表記)」の続編である、「モンスター事典2 Beyond the Pit」がついに刊行されたのです。出版元はアリオンゲームズという会社で、これまでにも改訂AFFや「タイタン」「モンスター事典1」といった関連書籍の再刊や、新作のTRPGシナリオ「ソーサリーキャンペーン 王たちの冠」(日本でも2000年代前半に国際通信社から出たd20FFとは別物)などを出版してきました。

この本が出版された経緯はこれまでのシリーズ中でもいささか変わっており、ファンからファンド形式で出版資金を調達して刊行にこぎつけたという点でしょう。最近色々な所で活用されている「クラウドファンディング」というやつで、本書を出版するのに必要な経費(ライターやイラストレーターへの謝礼、印刷代など)を一口いくらで公募し、必要な金額を超えて集まったら出版プロジェクトを始動するというものでした。出資者には出来上がった本(出資金額によってソフトカバーだったりハードカバーだったり色んなおまけグッズがついたりする)を進呈するというものです。もちろん本は出資者にのみ配布されるのではなく一般にも販売されます。
ただし本書は「自費出版」的な扱いのようで、ISBNコードがありません。これは一般の書籍流通には乗らないという事でもあり、現時点ではアマゾンなどでも取り扱われていませんでした。
このようにファンドで出版資金を集めるというのも時代の流れかもしれません。いかにFFが復活したといっても80年代のように馬鹿売れするわけではない以上、紙媒体での出版は売れるかどうかのリスクがつきまといます。FFのように今ではいささかマニアックなゲーム類の新作はクラウドファンディングで手堅く資金を集めるのが賢いやり方ではありましょう。「最後のFF作家」ことジョナサン・グリーン氏もこれと同時期にクラウドファンディングで資金を集め、FF30年の歴史を関係者インタビューで綴るドキュメント「主人公は君だ You are the Hero」という本や、新作ゲームブック「不思議の国のアリスの悪夢 Alice's Nightmare in Wonderland」(ただしFFシリーズではない。項目数520の大ボリュームで、当サークルでも後日翻訳予定)を刊行しました。今後こうした例は増えるかもしれません。

気になる本書の内容については、前著以降に新登場したモンスター類を250種取り扱っています。巻号で言うと、パフィンブックス49巻「サルダス包囲網 Siege of Sardath」までと「王子の対決 Crash of Princes」「謎かけ盗賊」やAFFの各書と、14巻以前のゲームブックで登場しながら前著でフォローしきれなかったモンスターを扱っていました。逆に言うと、50巻以降及びウィザードブックス新作で新登場したモンスターはほとんどフォローされておらず、その点はいささか未練が残ると言えます。また、49巻までの本でもなぜかスティーブン・ハンド氏のゲームブック(40巻「夜よさらば Dead of Night」、44巻「影の戦士の伝説 Legend of the Shadow Warriors」、48巻「ムーンランナー Moonrunner」)で初登場した(つまりハンド氏の創作した)モンスターが一つも載っていなかったのも非常に気掛かりではありましょう(ただし当サークルの訳書では「ムーンランナー」に登場したあるモンスターを1種類のみ、別のFF関連書籍のデータを引用する形で追加収録)。それと元のゲームブックに挿絵がなかったモンスター類が収録から漏れたのも明らかです。これは新たにイラストを描き起こす予算やスケジュールが不足していた為でしょうか(ただし「恐怖の幻影」と「ナイトメアキャッスル」のモンスターのみイラスト著作者の許諾が取れなかったと見られ、これらは書き下ろしで掲載)。



こうした弱点は若干ありますが、それでもこの時代にこのような本をよく出してくれたとは思います。日本未訳作品をお読みになった方であれば当然抱いた、新登場モンスターの詳しい素性がやっと判明したのですから。「破壊の塔」に登場した新たなエルフの支族である氷エルフ、「闇の短剣」で主人公を狙った暗殺者種族マムリク、「吸血鬼の魔城」でハイドリッヒ伯爵の強力な番兵を務めたサスサロス、「死の軍団」の岩男や泥砕き、「黒き血脈の予言」の平和な蛙型種族クリーフルと邪悪なドラゴン・スタラマック、「憤怒の牙」の竜人やアマゾン族など…。
のみならず、33巻までの既訳作品のモンスター類も豊富であり、むしろそちらの方が本書の主軸を占めているとも言えます。中でも「ソーサリー」のモンスターには前著では解説されなかったのが多く、サイトマスターやクラッタマン、眠れぬラム、大魔王の正体であった黄泉の国の悪魔、さらには七匹の大蛇などにも詳しい解説がなされました。
さらに注目すべきは各ゲームブックに登場するキャラクターや地域の設定を新たに固めた所でしょう。例えば「王子の対決」の舞台である都市国家ガンドバッドは詳しい位置付けがされなかった為に、ファンの間ではタイタンとはまた違った異世界ではないかという見方(筆者も当初はそう考えた)もあって論議の種だったのですが、本書ではこれがクール大陸北部にある地域だと新たに設定が固められました。

一方登場キャラクターの設定面では

・「死の罠の地下迷宮」にNPCとして登場した二人のバーバリアン戦士、一人はスロムという名がゲーム中に登場したが、もう一人はクロムという名でスロムの兄と本書では解説。

・「盗賊都市」の悪役ザンバー・ボーンと「モンスター誕生」に登場したザラダン配下の骸骨医師キンメル・ボーンも兄弟で、両者はモンスター種族としては死霊王(リッチロード)という分類。

といった設定が新たに付け加えられています。他にもたくさんあるのですが、それは実際にお読みになってのお楽しみという事で。

「1」の刊行から29年目にしてようやく登場した待望の本であり、本書はFFファンとしては必読の史料集と言えます。旧著の時もそうでしたが、まさに「むさぼり読む」という形容がぴったりな内容ではないでしょうか。

贅沢を言えば、まだ解説されていない多くのモンスターを網羅した第3弾も刊行して欲しい所です。さらに重要なのは作品世界の設定に関する追加資料、すなわち「タイタン2」でしょう。前著「タイタン」(時期的にイギリスでは「モンスター誕生」の直前に出版。日本では逆にこれら2冊が出た後になってしまい、ザラダン・マーの来歴をやや曖昧にして事前に読者の興味を煽るという英本国で行われた手法が空回りしてしまった)以降に新しく登場したキャラクターや地域などをぜひまとめて欲しいものだと思います。果たしてこれらも制作しようという声が出て、クラウドファンディングは行われるのでしょうか。
(続く)
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